会員活動記録


水球五輪予選アジア大会決勝
中国戦観戦記


2015.12.10
山本 健

水球 五輪予選アジア大会決勝 中国戦観戦記 山本健


2015.12.10 日本水球の歴史に大きな一ページが加わった。舞台は中国広州省佛山市世紀蓮体育中心水泳場で、そこは荒涼とした河川敷の敷地に建つ上屋に星を戴く公式競技プールであった。主役は日本代表水球チーム,大本監督のもと鍛え抜かれた選手16名であった。
中心選手は欧米の強豪チームに所属、長期間水球修業を重ね、国際的なパワーと水球技術に磨きをかけてきた選手たちであった。
そしてオリンピック参加への道は決して安易なものでなく,厚いアジア予選の壁に阻まれ30年以上予選を突破できなかった。海外在住の先輩の元、水球修業を重ねた何人かのあとを追い、力をつけてきた実績が今実を結んできたのである。すなわち、日々12時間以上の泳力強化、ウエイトによる体力アップ、試合形式を含むボールワーク,等に励み、従来の日本選手の欠点とされた体力的劣勢を跳ね返し、泳力や機敏な身のこなしを生かして攻撃的な水球を目指した。また守備面でも圧倒的な水中格闘だけに引きずられるより、位置取りのフォーメーションで相手のパスを阻止するやり方で活路を見出した。体力で押してくる相手に対し、それをうまくはぐらかし、その力を水中への暖簾押しの状態にして、身をかわす。自分は巧みに間隙を突き泳ぎ回り、防御を攻撃に
切り替えて、敵の狼狽を誘うものであった。そして敵ボールのとき相手の前面インサイドに位置したデフェンスは敵を外側に追い出しつつ、マンツーマンのマークでパスコースをカットしたり狂わせたりする。地域間隔の広がったオフェンスは、パスコースも遠くなって正確さを欠き、苦しいパス回しの末、許容された30秒の攻撃タイムを使い果たす。実際に試合中3回にわたり、敵方の意識的な捨て球による攻撃権の放棄が見られた。
第一ピリオッド、開始早々連続して3点をとった。3点目は特に難しいパスが、2ヤード付近でポストに向かい相手デフェンスを頭一つ分引き離したフォワードにわたり、ハンドツーハンドで叩き込まれた。わずか数センチのスペースに数分の一秒のタイミングで送られた絶妙の直球パスは見事であった。そのあと敵の放ったフリースロー下のシュートが誰にも一点の失点に思えたが、違反となる二段モーションと判断されノーゴールとなったここでのダメージは大きく、意気消沈した相手にさらに追い打ちをして第一ピリオドは4点差で終わった。試合早々のこの差は結局最後まで尾を引いて日本有利のまま展開したのである。
第2ピリオッド以後GK からの攻撃的ロングパスが正確に敵陣右サイドをとらえ、そこからの時間に余裕にある攻撃がじっくりと重ねられた。一方デフェンスでは、冷静な守りでアクテイブな得点は与えなかった。懸念していたホームタウンデジジョンは当初はあまり見られず安堵していたが、日本の守り方が敵攻撃を完全にアウトサイドであるプールサイド側に押しやった結果、ゴール前のフローターにスペースができ、たまたまそこに好パスが届いたときは、そこでデフェンスとの一対一の格闘が起こる。普段はサンドイッチ状に二人で守る位置を一人だけでこなすため、かなりハードなアタックとなり、敵のシュートチャンスを妨害したことでのペナルテイシュートや退水など重い反則を科せられる。中国の得点10点のうち6点がペナルテイでの得点でさらにそのうち4点が前半に集中したため一時は2点差まで詰めよられた。役員席にいたアジア地区の水球副委員長が「信じられない」と言っていたように、アウエイの笛があったことも否めないが、この防御システムの弱点であるオーバーパスやフローター阻止の反則誘発は対策が研究される。
3ピリッドからは、敵のペナルテイを含む一点に対しこちらは2点をとるという展開で、維持していた4点差を上回り一時はダブルスコア―14対7にまでなった。最終局面での中国チームはまさにあきらめムードで一方的となった。翻って全般を通じデフェンスは成功した。中国の攻撃はカザフ戦での日本を上回る勝利が疑問視されるほど迫力のないものであった。またオフェンスでは早く正確なパスと休みない泳ぎでの動きが相まって多くのシュートチャンスを得た。さらにシュートの正確さは9割を超えほとんどが相手GK の届かないコーナーやバウンドシュートとなって突き刺さった。要所での竹井選手のミドルシュートも鮮やかに決まった。最初の3点のとき隣の日本役員に「中国は元気がない、うちは泳ぎ勝っている」と言ったら同感していた。それまでに予選リーグで中国の方が得失点差で有利であり、もしこれが引き分けであれば優勝は中国となるはずであった。それだけに引き分けは負けだとする切迫感が、我が選手を引き締めていたと思う。或いは中国に驕りとか安心感があったようにも感じた。
ふりかえって、得点の多さは、正確なクイックパスにあった。ほとんどノーミスでシュートチャンスまで球が運ばれた。相手がきついマークをしていても泳ぎながら瞬間的なピンポイントパスを待つ味方に対し、まさにほしがる場所へほしがるタイミングで送られた。そこで得点になることは水中球技では当然の結果であり、このアシストには得点以上の功績があった。覚えているミスシュートは一本だけ、それもゴールバーに当たったものであった.体触とボールの競り合いにおいては長身の中国選手に対し見劣りすることなく対等以上にフロートしていた。これにより日本独自のフォーメーションを攻守とも維持できたと思う。今後オリンピックで欧米選手と渡り合うときどこまで通用するか、課題はあるとしても格段の進歩があった事は称賛される。
この日本のデフェンスはなおGK との連携を強化し,退水時のゾーンデフェンスの組み合わせとCF に対するペナルテイ対策の考慮、今後のたゆまぬ練習の積み重ねが望まれる。
32年ぶりの水球オリンピック出場と言われるが、じつは東京五輪の前のオリンピックはベルリンとローマで出場していたのであるからこれは3回目のパターンともいえる。きめられたコースのような因縁が、さらにラグビーのように世界を驚かせる勝利や決勝進出につながれば幸いであり、竹井選手の弾丸シュート、GK 棚村選手のピンポイントロングパスなどが五郎丸キックに匹敵するよう耳目を集めたいものである。
水球チームは日本人だけの純血チームであるだけに檜舞台で善戦すれば世間の共感を得ると思う。試合に先駆けて遠路 鈴木大地長官にも来場いただいた。日陰にいた水球をこの快挙を契機に盛り立てていただきたい。
帰途の飛行機内で「日本水球選手団のみなさん オリンピック出場おめでとうございます。リオでの健闘を祈ります」と機長からのメッセージが流された。選手が初めて関係者以外の日本人からのエールをもらった瞬間で、感激ひとしおだったと思う。私からは長い苦しい練習に耐えた全員の努力に敬意を払い、結果を出した事が今水球をやっている後輩、過去水球にかかわったすべての先輩への大きな贈り物であり、彼らに夢や目的を与え、人生での水球実績を誇りに持てる効果を与えた事、水球界をメジャーとする道を開いたこと。これらすべてにわたり感謝したいと思う。

中国の飛行機内で「日本水球選手団のみなさん オリンピック出場おめでとうございます。リオでの健闘を祈ります」と機長からのメッセージが流された。選手が初めて関係者以外の日本人からのエールをもらった瞬間で、感激ひとしおだったと思う。私からは長い苦しい練習に耐えた全員の努力に敬意を払い、結果を出した事が今水球をやっている後輩、過去水球にかかわったすべての先輩への大きな贈り物であり、彼らに夢や目的を与え、人生での水球実績を誇りに持てる効果を与えた事、水球界をメジャーとする道を開いたこと。これらすべてにわたり感謝したいと思う。

2015.12.25 山本健 記 (1960ローマ五輪オリンピアン)


戦績 1p 2p 3p 4p 計
日本 6 2 3 5 16
中国2 4 1 3 10

(得点者竹井5大川3荒井足立2志賀柳瀬志水筈井1)


                             
 
 
 
                    


山本健さん(32政)は昭和35年・ローマオリンピックに出場して以来、
塾体育会・水球部を永く支えてこられました。

なお、水球五輪出場は昭和59年以来32年ぶりの出場になります。



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